mirage of story












「だってそうだろう、カイム?

嬢ちゃんは自分の意志で一人で行くと、一人で向き合うと決めたんだ。

俺達に心配されることなんて、望んじゃいないはずだ。
お前がそんな顔してちゃ、先に向こうに行ってる嬢ちゃんもやりにくいだろうが」




ヘラッと笑いながら、ジェイドはそう言い後ろからカイムの肩を叩く。
しかし手加減無しにバシバシと叩くので、結構痛い。








「い、痛いです」



そう主張するカイム。
だがジェイドは全然気にする様子もなく、ハハハッと笑いそのままカイムの横を通り過ぎた。

カイムの先、そこは本当に甲板の先端。
その先端のフェンスに凭れ掛かり、その浮かべた笑顔のままに先程までカイムが見つめていた水面の向こうを見た。















「俺達が心配したところで何も変わりはしねぇんだ。

......だったらそんなことしてねぇで、俺達は嬢ちゃんが俺達を仲間だと信頼し託したこれから先すべきことを、どうやって遂げるか考えた方がずっといい」



「ジェイドさん.......」




笑顔のまま水面の向こうを見つめるジェイドの顔に、雲越しに注ぐ太陽の淡い光が照らす。



いつもの笑顔。
だけれどその笑顔は真剣で、何よりその内に秘められた想いが一層その笑顔に重みを与えていた。

上辺だけの笑み。中身は何もない空っぽの笑み。
いつもジェイドはそうやってヘラヘラと笑って自分を隠そうとしてきたが、今回だけは違っていた。














「.............それにきっと、ライルの奴だって気が付くはずさ。

アイツが一番、嬢ちゃんのことを―――姫さんのことをずっと大切に想ってきたんだ。
俺なんかよりもずっと、強い想いを持ち続けてきたんだ」




ジェイドの紅い瞳は、湖面の水面を映しながら過ぎ去ってしまった過去を回想する。

その瞳には今までずっと長い間忘れかけていた、真剣に人のことを想うという感情が滲み出す。
彼の中で欠けてしまっていた何かが、今の彼の瞳には在る気がした。









.