刃の煌めきの向こう側。
見えるのは先程彼によって弾き飛ばされた彼女の剣。
剣さえあれば、シエラにも戦いの末の勝機はあるはずなのに手は届かない。
「人間さえ居なければ!」
――――。
剣が再び襲う。
彼の表情の闇が増す。
カンッ!
ギイィインッ!
その剣を再び鞘で弾く。
鞘で受ける衝撃は量り知れず、彼女の身体にそれを伝える。
カランッ。
鞘は剣をまともに受け止めたその反動で手元から離れる。
彼女の手には、何の感触も無くなった。
彼女は唯一の防御の術も失った。
もう、駄目だ。
感じる絶望と死の淵。
鞘が無くなった手で、虚しく地を掴む。
「これでもう終わりだ」
―――。
狂気を帯びた声だった。
(.......私、死ぬみたい)
彼女は死を覚悟する。
死。
それを前に、呆然と突き付けられた刄を見つめる。
(死にたくない。
でも―――死んでしまえば、全て終わりに出来るかな?)
死にたくないという願望と自らの存在に対しての違和感を掻き消してしまいたいという対なる衝動。
彼女は無意識に目を閉じる。
(母さんが生きてる時は幸せだったわ。何もかもが満ち足りていた)
冴え返る思い出。
だけど、エルザはもう居ない。
(私のせいで、母さんは)
蘇るあの日の記憶。
炎の丘も、憎いロアルの姿も。
哀しみも、悔しさも。
そして、自分のせいでエルザが死んだ罪悪感も。全てが蘇る。
(死んでしまえば、楽になれるのかな......母さん)
死ぬのは恐い。
だけど今、ライルによって殺されてしまえば。
抱いてしまった希望は悲しすぎるもの。
死んでしまえば、母さんにも会える。
また、あの幸せな日々に戻れる。
そんな、希望。
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