「..........何故罪も無いルシアスを殺した?
何故っ!
答えろ。ルシアスの死の理由を!」
カッ!
再び開かれた彼の瞳に悪寒を覚える。
「私が、その人を」
彼の怒り。哀しみ。
自らの記憶には無い問いと、自らがこの指輪を持っていることへの違和感。
その底知れぬ感情が彼女を蝕む。
っ。
指輪は何も知らぬかのように尚も変わらず淡く美しい光を放っているというのに。
(私は―――何者なの?)
自分が恐い。
今の彼女には、彼の大切なその人の命を奪った記憶は無い。
―――だけれどもしも、今の自分が知り得ない過去の自分がその人の命を奪っていたとしたら。
考えたくない。
一体、何者なのか。
自分の知らない自分が恐い。
「俺は、お前等人間を許せない。
ルシアスの命を奪った人間を.....お前を許すことなど、出来ない」
ザッ。
言葉も動きも失う彼女に向けられるは、彼の哀しみと鈍く鋭い剣の煌めき。
刄が取り巻く炎に反射して紅く燃える。
――――。
剣を構える彼の瞳はもう先程の彼のものではない。
人を忘れた獣の瞳。
今の彼は、最早人でない。
「ルシアス.....お前の仇を」
――――。
シュッ......ザンッ!
そして、彼の刄は真っ直ぐに彼女を襲う。
「ッ!」
鋭く空間が斬れる音。
シエラはそれを咄嗟に避け、腰に下げてあった剣の鞘で受け止めた。
鞘に弾かれ体勢を崩したが、彼は後方に退き再び剣を構える。
さすがは軍人、動きに無駄が無い。
このままでは勝敗は明らか。
鞘で受け止められるのも、高が知れている。
ッ。
そう思った彼女は自らに煌めく刃の向こうを見た。
(あの剣さえあれば)
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