「えっ、ここに住んでるんですか…!?」

そこは、お天気の時は会社からも見えるタワーマンションだった。

「そうですけど」

榊さんは自動ドアのロックを外し、エントランスへと入って行った。

よく麻里恵と話すことがある。あのマンションに住むのはきっとお金持ちで売れっ子の芸能人とかだよって…。でも、同じ会社の上司が住んでいた。こんなに身近にもセレブがいるなんて…!

高ぶる気持ちとは裏腹に、二人でエレベーターに乗り込むと途端に緊張してきた。前もあったよねこんなこと。髪型について言われたけど…。どうしよう…どうしたらいいの?榊さんは緊張しないの…!?

いや、するわけないか…あんなに大勢の前で喋れる人だもんね。でも私は緊張する。そうだ、会話だ…!会話をしてこの緊張と気まずさをなんとかしよう…!

「さ、榊専務って身長何センチですか?」
我ながらなんとも幼稚な質問。だってこのくらいしか思いつかない…!

「…身長ですか?この前測った時は182cmでしたけど」

「へぇー…大きいですね……」
だ、ダメだ…その後の会話が続かない!こんなことなら話しかけるんじゃなかった。気まずさに巻き込んでごめんなさい榊さん。

「着きましたよ?」

エレベーターから降りると、そこはワンフロアで奥の方に扉が一つしかなかった。榊さんはどんどん先に行ってしまう。

「あの、どうして扉が一つしかないんですか?」
私が住むマンションは何個も扉が並んでいる。

「あー、この階には私しか住んでないからですかね。さ、どうぞ上がってください」

榊さんはお財布からカードキーを出してロックを解除し、それで玄関の扉を開けた。

「…っすごい!ホテルに来たみたい…!!」これが噂のワンフロアマンションかと自然にテンションが上がり、お邪魔する身だという事も忘れてはしゃいでしまう。