「ねぇ、あと15分しかないよ?それ食べないの?」

麻里恵は私のチキン南蛮を指差した。
腕時計を見ると、時計は12時45分を示していた。

「あ…うん、なんか食欲なくて」

それを聞いた麻里恵の顔はパァっと明るくなる。

「ちょうだいっ!!」

「ははは…いいよ、はい」

私はお盆からチキン南蛮のお皿とご飯を麻里恵のうどんが乗っているお盆に移動させた。

「味噌汁だけ飲むよ」

業務に戻っても、頭の中は榊さんのことがいっぱいで手につかない。
なんでこんなに気になるんだろう。今更過ぎる。

そんな私の進捗状況の悪さを課長に見破られ、残業を課せられてしまった。

定時になると殆どが帰りの支度をし出す。そこから更に時間が経つと、一人、また一人とタイムカードを切ってオフィスから出て行く。

「それあと何枚あるの?」

ロングコートを羽織り、身支度を済ませた麻里恵が私のデスクの上にカフェオレを置いた。

手元にはまだ纏められていない資料の山。

「うーん、わからない…。」

流石に苦笑いしか出来なかった。

「手伝ってあげたいけど今日はデートなんだわ、ごめんね!」

だから帰るだけなのに化粧直しもして、オニューのスカーフを巻いているのか。

「いいのいいの、楽しんできてね」

麻里恵の背中を見送りながら、気づいたらオフィスには自分一人きりだということに気付いた。

オフィスの入り口に行き、必要のない照明は落とす。

薄暗い部屋はなんだか落ち着く。

私も麻里恵みたいに社交性があって、美人なら楽しく恋愛できるのかな。
漫画みたいな恋に憧れていないと言えば嘘になる。

でも、好きな人を思って胸が苦しくなるとか、会いたいって思うとかよくわからない。

いつか恋愛できるその時まで待とうって思っていたけれど、そのいつかっていつ…?

そんな日は来るのかな…。