だから、お前なんて。



「あ、あの……ちょっとだけいいかな?」



あ!名乗るを忘れた!

声だけじゃきっとわたしなんてわかんないよ。



「え、待って……杏彩……?」



戸惑うような声でわたしの名を呼んだ春瀬。

わたしって分かってくれたんだ。

それだけのことなのに嬉しさが込み上げる。



「ごめんね、いきなり……って、えっ!?」



インターフォンに向かって話しかけていたのに、ドアが開いて中から額に冷えピタを貼った春瀬がおぼついた足取りで出てきた。


よろよろと、こちらに歩いてこようとするから急いで駆け寄って体を支えた。



「なにやってんの!?病人なんだから無理しないでよ!」


「だって……まじ?まじで杏彩?嘘じゃない?俺の夢?」


「わたしだし、夢じゃないよ。現実」



こんな動揺している春瀬を見るのは初めてかもしれない。


とりあえず病人の春瀬を外に出しておくのは危険だから、家の中にお邪魔させてもらって春瀬を支えながら彼の部屋のベッドまで連れていった。