「春瀬のやつ、休みかよ〜。まあ、あの雨の中傘もささずに走って帰ったら風邪も引くわな」
クラスの男子の会話が聞こえてきて、ドクンと心臓が嫌な音を立てた。
嘘……。
やっぱり、傘をささずに帰ったんだ。
本当にどうかしてるよ、春瀬。
なんで好きでもない、別れて清々してるわたしなんかのために一つしかない傘を貸してくれるの?
どうしてわたしが濡れないように心配してくれるの?
「杏彩、昨日すごい雨だったけど大丈夫だった?」
朝のHRが終わると、千里が声をかけてきてくれた。
「うん……大丈夫だった」
「いつも傘もってきてないから昨日も濡れて帰ってると思ったからよかったよ。でも、それにしては浮かない顔してどうしたの?」
「あのね……春瀬が傘をわたしの下駄箱にいれてくれてたの」
未だに信じがたい現実。
あんなに突き放したあとに優しくしないでよ。
優しさで惑わさないで。