「え〜!わたし先輩と帰れるなら濡れてもいいです!」
「風邪ひくからだーめ」
そんな二人の会話を聞いているとどうしようもなく虚しくなって帰るはずだった足を逆に向けて意味もなく教室に戻った。
そして、誰もいないのをいいことに春瀬の机に座るとそのまま顔を伏せて、春瀬の優しさを思い返していた。
こんなにもあの日々に浸って、未だに抜け出せないのはわたしだけ。
春瀬はいつもわたしか柏木くんに泣かされるというけれど、確実にあんたに泣かされることの方が多いよ。
こんなにも好きで仕方ないんだから。
最低だって、クズだって、求めちゃいけないって分かっているのに、自分でもわけがわからなくなるくらい春瀬の優しさが温もりが恋しくてたまらない。
「環、好きだよ」
いつもは素直に言えない気持ちが今はすんなりと言葉になって、声に変わり、あわよくば君に届けばいいのに。
ザーザーと音を立てて降りしきる雨。
まるで、わたしの心の中のようだ。



