「環先輩!雨降ってるんですけど傘もってますか?わたし忘れちゃって」
牧野さんの声が聞こえてくる。
可愛い嘘だ。
相合傘をしたいがためについた彼女のかわいい計画的な嘘。
わたしは今朝彼女が折りたたみ傘を持ってきているところをたまたま見たから。
春瀬は意外とそういうところはしっかりしているから天気予報をみて折りたたみ傘を持ってくるタイプ。
だから、きっと今日だってふたりで仲良くひとつの傘を差して……
「俺も忘れたんだよね〜。牧野ちゃん濡れちまうから悪いけど今日は友達と帰って」
あれ……忘れたの?
珍しい。
わたしと付き合っていた頃は忘れたことなんて一度もなかったのに。
いつもわたしが傘を忘れるから一緒に春瀬の傘をさして帰っていた。
わたしは気づいてたよ、そのたびにわたしを濡れないようにとはみ出た春瀬の肩が少し濡れていたことに。



