「何言ってるの、柏木くん」
柏木くんの手が伸びてきてわたしの頬を伝う涙を親指でスッと拭った。
そして、切なさを帯びた瞳で力ない声で「ごめんね、小宮さん。俺が弱いからきみを傷つけた」と言った。
ごめんね、なんてわたしが好きで選んだ選択だったのに。
弱い、なんて一番弱いのはこのわたしなのに。
傷つけた、なんてわたしから傷つきに行ったのに。
「柏木くんはなにも悪くないよ。ただお互い、好きすぎるだけなんだよ」
わたしは春瀬を、柏木くんは彼女を。
その気持ちを向ける矛先を間違えてしまったんだ。
だから柏木くんは悪くない。
「……ほんと、小宮さんには敵わないな。そういうところわりと本気で好きだったよ。今もそう思ってるって言ったら困る?」
「え?」
「嘘だよ。冗談。彼女とは上手くやれてるよ」
そう言って、柏木くんはふわりと優しい笑顔を浮かべた。
彼女の話になると柏木くんはいつもこんなふうに笑う。



