だから、お前なんて。



たとえ、遊びでもいいから春瀬のそばにいたいと本気で思っていたくせに。


いざ、本当にそうなるとどうして素直になれないの?


どうして、思ってもいないことだけが口に出て、本当に言いたいことには蓋をしてしまうんだろう。


苦しい。苦しいよ。


春瀬を好きでいるのは水の中で息を止めているみたいに苦しい。

春瀬は何もかもがずるいんだよ。
彼の全てがわたしを虜にしてしまう。


体育館の外に出て学校の廊下に逃げ出してきた。


その瞬間、我慢していた涙が溢れてわたしの頬を何度も伝った。



「春瀬のバカっ……」

「小宮さん?」



その聞き覚えのある声にハッとして後ろを振り返ると、そこにはわたしを心配そうにそしてどこか気まずそうに見つめている柏木くんがいた。



「か、柏木くん……っ」



あの日、終わりの言葉を告げられてからお互い寂しさを埋めあった日々なんてまるでなかったかのように振舞っていた。


だからまさか話しかけられるなんて思ってもいなかった。