「つーか、アイツのどこがよかったわけ?ほんと見る目ねえよな。この俺が近くにいるっていうのに」
嘘つき。近くになんていなかったじゃん。
きみから離れていったくせに。
繋いでいた手を離したのは、春瀬なのに。
「少なくともあんたよりは百億倍もいいよ」
また、思ってもいないことを言った。
わたしにとって、あんたよりいい人なんて、世界中のどこを探してもきっといない。
「俺もお前みたいな女、捨てて正解だわ」
「っ、」
じわっと視界が歪む。
ダメ……泣いちゃダメ。
ぐっと唇を噛み締めて、必死に涙を堪える。
春瀬がわたしと別れたことを後悔していないことくらいわかっていたことなのに、なんでこんなに胸が苦しくてズキズキと痛むのだろう。
「わたしだって、あんたと別れて清々してるよ!!」
キッ、と春瀬を睨みつけて、本当の気持ちとは裏腹の言葉を投げつけて走って春瀬から逃げた。
未練だらけで一度も忘れたことなんてないくせに。
別れてからもずっと心の中にいるのは他の誰でもない、春瀬だったくせに。



