「……っ。ば、バカじゃないの!」
「なにわかりやすく動揺してんだよ」
「なっ、」
「書いてあるわけねえだろ、バーカ」
「あたりまえでしょ!そんなこと思ってないんだから!」
もう放っておいてよ。
春瀬に構われるたびに、また幸せな日々が来るんじゃないかって、また春瀬がわたしの名を呼んで抱きしめてくれる日が来るんじゃないかって思ってしまう。
そんなの叶わないのに。
わたしは、捨てられた身なのだから。
「柏木だったら、喜ぶわけ?」
「……え?」
正直、柏木くんに未練はない。
そもそも柏木くんとはお互い好きな相手に伝えられない想いを相手をその人に見立てて言い合っていただけのなんとも言えない歪な関係だった。
体を重ねたときだって、お互い名前を呼ぶのは目の前にいる相手ではなく、狂おしいほど愛しい人の名前。
そんな、寂しさを行き場のない想いをぶつけ合うだけのなんの意味もない、馬鹿げたことをしていた。



