「……彼女、せっかく追いかけてきたのになんで突き放したわけ?」
教室を出て追いかけてきた杏彩を突き放したのはつい先程のこと。
一部始終を見ていた中川大和(なかがわやまと)がそう言った。
大和は俺の気持ちを知っている。
好きでたまらなかった杏彩を手放したことを今でも後悔していることも。
「上手くできねえ」
「なにが」
「どうやったらちゃんと優しくできんだろ」
わからない。優しさが。
俺は柏木よりも優しくない。
あんなに柔らかい笑顔を向けることも出来ない。
杏彩を困らせたり、傷つけたり、意地悪したりすることしかできない。
どうしたって、本当の感情は胸の中にしまい込んでしまう。
「お前、ほんと好きだよな」
「うるせえ」
あんなに誰かを好きになったのは初めてだった。
告白された時はただの暇つぶし程度にしか思っていなかったけど、同じ時を過ごしていくにつれていつしか後には引けないほど惹かれていた。