【環side】
『好きだよ』
『あたしも』
そんな二人の会話を耳にしてしまったのは、なんでもないありふれた一日の一部だった。
本当は聞くつもりなんて全くなかった。
だけど、その男女の女の子があずちゃんだったからつい立ち止まって聞いてしまった。
しかも、男の方は美人と付き合っていると噂の柏木。
正直、信じられなかった。
あの真面目な杏彩が浮気相手になっていること。
でも……杏彩はわりと何も考えずに突っ走ってしまうところがあるのを知っていたからきっとそうなってしまったんだろうと思った。
柏木と幸せそうならそれでいいと思っていたけど、なんとも言えない気持ちを抱えていた。
確かに振ったのは俺だ。
だけど、本当はまだ杏彩のことが好きだったりもする。
じゃあ、なんで振ったんだって話だけどそれは……杏彩を失うのが怖かったから。
俺は、素直に好きだと言える人間じゃない。
大切にしようとしても、大切にする方法が俺にはわからなかったんだ。
それに、他にも理由はある。