そうか。そうだよね。

春瀬にとってあたしはそれくらいの存在だもん。

都合のいい女ということ。

暇つぶしにちょうどいいんだよ。

わかっていたはずなのになんでこんなに切なく胸が疼いているんだろう。


「暇つぶしなら……守ってくれなくていい。そんなの、いらない」


また傷つくのが嫌であたしは春瀬から離れた。

早く離れなくちゃまた傷つく。

もう傷つきたくないもん。ちゃんと愛されたいもん。

だから、春瀬のことなんて知らない。


「お前の意見なんて聞いてねえし」

「……」

「つーか、変な勘違いはすんなよ。
おバカなあずちゃん」


そう言いながらヒラヒラと手を振って言ってしまった。

結局、春瀬は一度もあたしのほうを振り向こうともしなかった。

所詮、春瀬の中であたしの属する位置は何も変わっていなかった。


「……クズ」


吐き捨てた言葉にはあたしの行き場ない想いが詰まっていたなんて、きっとこの声が届いていない春瀬は知らないだろう。


“杏彩”


そう呼ばれて、どうしようもなく嬉しくなったことを春瀬だけには知られたくない。