「全然、引きずってなんてないよ」
そもそも、千里はこの浮気行為には反対だった。
初めて柏木くんと関係を持ってしまった時、心配そうにあたしを止めてくれたけど止められなかった。
春瀬への溢れてくる想いを止める方法が、柏木くんを利用することでしかわからなかったんだ。
「ねえ、あの子でしょ?
柏木くんと浮気してたって噂の子」
教室からヒソヒソと聞こえてくる声に耳を塞ぎたくなる。
誰かに見られていたのかな。
あたしはどうだっていい。
柏木くんにまで被害が及ばなければいいけど……。
だって、せっかく彼女さんと元通り仲良くなれたのにこの噂のせいでまた関係が拗れたりでもしたら大変だ。
「杏彩……」
千里が心配そうな瞳であたしを見ている。
だけど、あたしは千里に笑顔を見せた。
あたしは、大丈夫。そう伝えたかった。
本当は全然大丈夫じゃない。
今すぐ逃げ出したいくらい辛いし悲しい。だけど、そんなの言えないよ。
だって、全部あたしが悪いんだもん。



