だから、お前なんて。




「……うるさい」


たとえ、クズ男だとしても
いまは、この人がいてよかったと思う。

抱きしめてあたしの涙を受け入れてくれている。
なんか、それだけで壊れた心が修復された気がする。

本当にあたしは単純だ。


「お前の匂い……ほんと落ち着く」

「……ほんと女たらし」

「あずちゃん、あずちゃん」

「……そんなに呼ばないでって」

「相変わらず、冷たいけど可愛いよな」


可愛いよな、なんて誰にでも言えるんだよ。
このクズ男……春瀬 環(はるせ たまき)は。


「もう泣き止んだ。
だから、離れて」


その言葉が聞こえているはずなのに
春瀬は抱きしめている力を緩めようとはしない。


「……離したくない、なんてな」


そんなことを言って、ふにゃっと笑う。
こんなクズ男の言葉に胸を高鳴らせている私は本当に単純すぎる。