ビターキャラメル ビター

「あいつとは、とっくに別れてる」


「っ」


高いところにある宗吾さんの顔が、背中を丸めて私の顔に近づく。耳元で囁かれるような体勢になり、身を捩ろうとしても離されないことに嬉しさで震える。


あいつが誰のことを指すかなんて、すぐに浮かんだ。


「言われたんだ。雨の夜に助けた女の子のことを話すおれが、いったいどんな顔をしてるのか自覚はあるのかって」


「どんな?」


「教えてもらえないばかりか、ひっぱたかれて振られた。――なあ紫織、それでおれは自分で一生懸命考えたんだ。振られた直後に、振ってくれたあいつに白状なのは百も承知で、おれはその顔と、なんでそうなるのかの理由がわかったとき、とても幸せな気持ちになったよ」


「で、でも……」


「あいつのことを言わなかったのは自己防衛。なんとなく紫織の気持ち感じてたから。……全てを明確にするのは怖かった。おれ、紫織からしたらおじさんだし」


「そんなことないっ」


「さんきゅ。それに、自惚れや勘違いかもしれない可能性だって充分にある。……怖いよ。おれの気持ちを知られたら会えなくなるかもしれない。でももっと紫織といたくて、閉店後に店に来るよう仕向けたし、餌付けもした。就職祝い名目で外に連れ出した」