「一葉さん。神崎様は、どんなお話をしにいらっしゃったのですか?まさか、あのお話しですか?」
 「あの……冷泉様が突然どこかにお出掛けになったようで。探しているみたいなんです。」


 あまり事を大きくしたくなかったため、翠は小声で簡単に説明をする。
 すると、岡崎はほっとした表情を見せて頷いた。


 「そうですか。わかりました。」
 「あ、あの!あのお話とは、何の事ですか?」
 

 翠が質問をすると、岡崎は少し迷った後に、「今、私の口から言うべき話しではないようです。」と、ニッコリと笑い隠している事を隠そうとはせずに、店の奥へと行ってしまった。


 
 翠は、何の事なのか全くわからなかったが、色の事が気になってしまい、岡崎の話は頭の隅に追いやられてしまったのだった。




 仕事終わり。
 今日は秋の新作の説明があり、いつもよりも帰る時間が遅くなってしまった。最後の戸締まりの当番でもあったため、店内をチェックして、鍵を警備室に預けてから退勤をした。


 夜道をとぼとぼと歩きながら、翠はずっと色の事を考えていた。
 日付があと数時間で変わってしまう。そうなると、本当に色との関係は全てなくなってしまう。
 そんな日なのに、彼はここにはいないのだ。
 もしかしたら、彼は来てくれるのかもしれない。そんな事を考えていた自分が愚かだったのだ。

 彼はきっと急な仕事が入ったのだろう。
 何か大きな取引や商談があったのかもしれない。彼のことだから、一人で何でもこなしてしまうのだろう。

 体の事は心配だけれど、きっと彼ならば大丈夫だ。沢山の部下に、綺麗な彼女もきっといるはすだ。憧れの人に出会って幸せになるんだろうな。

 私はいつまで彼を好きでいるのだろうか。
 翠はそんな事を考えてしまう。今までこんなに好きで夢中になって追いかけてしまう人は誰もいなかった。

 俺様で、すぐに怒鳴るし、意地悪なことも言う。好きではないのに優しくしたり、キスをしたり、勘違いしそうなことばかりする人なのに。

 それなのに、彼の本当の優しさを知る度に、どんどん惹かれていくのだ。