契約の関係が続いたとしても、2人は変わらぬ雰囲気で接するようになっていた。
 キスをするときは、恋人同士のように甘くお互いが求め合うが、それ以外は今まで通りの関係だって。
 2人が慣れてしまったのか演技なのかは、よくわからなかったが、日々が過ぎていくゆくにつれ、それが普通になったのだった。



 「冷泉様は、スーツは着ないのですか?」
 「仕事の時は、ほとんどスーツだ。」
 「え………でも、、、。」
 
 家庭教師と、甘い時間の後。
 今日は、コース料理をいただいていた。いつものように贅沢をしてしまい、ダメだと思いつつも、あまりの美味しい誘惑に負けてしまう。
 そんな心もお腹も満たされた時間に、気になったことを彼に聞いてみた。

 翠が色に会う時は、いつも和装だった。もちろん、今日も淡い緑色の着物を身に付けていた。 
 お店で来店されるときも、担当ではなかったためか、頻繁には会うことはなかった。見かけた時は和装ばかりだったため、色の言葉に驚いてしまう。

 それに、社長としての仕事はほとんどが本社だと聞いたことがあったので、何故着物を来てここに着ているのか、不思議に思ったのだ。

 「自分の店に来る時は、雰囲気のためにもなるべく和装にしてるんだ。」
 「えらいですね!…あれ、じゃあ、わざわざ着替えてくれてるのですか?」
 「おまえが、家じゃ嫌だって言うからな。」

 色は不貞腐れた顔で、そう言いながらお茶を口にした。
 色がわざわざ家庭教師のために着物に着替えてここに着ていたのには驚き、申し訳ない気持ちになった。

 彼が忙しい仕事だと言うことは理解していたが、いつも翠よりも先にここに着いて、最後まで一緒にいてくれる事に感謝をしていた。食事は、取引先との食事や会合の前後のときは、食べなかったが、途中で帰ることはなかった。
 それにプラスして、着物にも着替えてくれていた。彼の仕事に対する考えにかっこいいと思い、そして、その手間に対して今まで何も言わなかった色の優しさに、翠はまた心がドキドキとしてしまった。