*side水夏理*.゚




 「明日から、お母さんが送り迎えしてくれるんだって。」

 

 とっさについた嘘。


 なんでこういうときは嘘がうまく言えるのか、自分でも不思議なくらい、私の口からは、たんたんと嘘が出てきた。


 「ちょ、待てよ。」
 

 叶くんの声がしても、私は無視して家に入った。

 


 -バタン。

 


 「叶、くん…。ふぅっ…。」


 私は、叶くんやお母さんにばれないように、声を殺して泣いた。

 
 



 叶くん…、もう無理しなくていいよ…。




 大嫌いな私といて、辛かったよね。

 


 いままで、無理させてごめんね。

 




 私は、ずっと、ずっと大好きだったよ-。






 *side叶夜.*゚.
 
 


 
 正直、何があったのか分からなかった。


 でも、家に入る瞬間の水夏理の顔が、すごく悲しそうで、寂しそうだったんだ。

 

 こんなときなのに、「守ってあげたい」なんて、「好きだ」って思うのは何故だろう。 

 

 あんな顔をさせたのは、俺かもしれないのに…。



 「クソッ…。」 

 

 -カンっ。



 俺は、捨ててあった空き缶を思い切り蹴って、家に向かった。

 

 




 「おかえり!お兄ちゃん。」


 「………。」



 何故か、何も知らずに、明るく出迎える真由にイラついてしまう俺が、ものすごく情けない。


 「なんか元気ないね…。」



 「………。」



 「その感じだと、水夏理ちゃんとなんかあったな~?」


 図星を突かれて、ピクッとしてしまいそうなのを、必死に抑える。


 「うん。あったんだね。」
 
 
 真由はすごく勘が鋭い。

 
 だから、こういうときはちょっと迷惑だ。
 


 「何があったの?」


 「………。」

 

 真由を無視して、さっと自分の部屋に戻る。

 

 「ムッ!無視ってひどくない!?…ちょっ!お兄ちゃん!?」

 
 


 -バタン。

 


 「はぁぁあ…。」


 ドアが閉まるのと同時に、ため息をつく。

 

 水夏理、何を勘違いしてるんだ?



 教えてくれよ…。


 
 水夏理………。