大都会から数十駅離れたベッドタウンであるこの町のことを知る人は少ない。
 その辺鄙な街で生活する僕のことなど到底知る人は少ないであろう。
 そんな小さな町の小さな団地の一室で一人の青年はだれにも発信されないであろうメッセージ、記録を打ち込んでいた。
 
「僕には一つ特技がある。いや、特技なんて聞こえのいいものではないか。正直僕はこの特技にうんざりしている。いい迷惑なんだよね。でもこれをいろんな人が知ったら、羨ましがるのかな、引くのかな、有名人かな。
 まあどうでもいいや。あぁそうそう。僕のその「特技」ってやつさ、幽霊が見えるんだよね、声も聞こえる。話すことだってできるんだぜ。凄いよな。でも触れないし除霊することだってできない。向こうからだって僕には触れないんだよね。意味あるのかなこれ、でも僕はこの特技のおかげで、おかげっていうかこいつのせいで人生めちゃくちゃさ。ふう、今日はこれで終わり。おやすみ。」
 
 たいくつな日常を風化させまいとつづけた日記付け。もはやどうでもいいことの羅列と化していた日課でこの話をするのは初めてだ。僕は物心つくときから「見えていた」何もない壁と話し込んでいたり、誰もいない向かいの道路に手を振ったり。はたから見たら少し異様な子供だった。