「…なんか、久しぶりだな」
唇を離した彼は、しみじみとそう言う。
「ん?」
「こーゆう感じ。悪くないね」
「…悪くないって、失礼な」
ごめんごめんと彼にくすぐられて、じゃれ合っているうちに、また唇が重なる。
次第に頬に添えられた彼の手が温かくなるのを感じ、それはまるで自分の熱が彼に移ったみたいで、無性にドキドキさせられた。
「…もっかいする?」
この雰囲気を、敏感にキャッチしたのだろう。
彼の手が、せっかく着せてもらった浴衣の帯に伸びたとき、私はすんででそれを払いのけた。
「しない、朝ご飯行かないと!」
えーと口を尖らせた彼が、どうしようもなく愛おしかった。
彼じゃないけど、私だってこんなのは久しぶりだ。
というか、ここまで大きな気持ちを抱えたのは、もしかしたら初めてかもしれない。
バタバタと支度をしながらカーテンを開けると、窓の向こうには、高く大きくそびえ立つ富士山があった。
それは絶対に登れない山だと思っていたこの恋と上手いこと重なって、不意に涙が溢れそうになる。
そんな自分が、心底可笑しかった。
「富士山、超きれ〜」
「ね」
真っ白に雪化粧された富士山を、きっと私は一生忘れない。
そしてそれを思い出すときは、いつも今日と同じ彼が隣にいてくれるよう、これが悲しい思い出になってしまわないよう、願って、願って、願ってやまなかった。