「ん、できた。かわい」
「うひゃ!」
「ちょっと。うひゃは色気なさすぎ」
彼は悪びれることなく軽く笑ったが、首元に突然キスされて、色気のある声を出せなんて無理難題を言われたって。
わなわなとする私の熱く火照った頬をからかうように、彼の冷たい手が両頬を包んだ。
「俺の3つめのお願い」
「はい…なんでしょう…」
「悠太って呼んで。俺も、里香って呼びたい」
まっすぐに私を見つめる彼の目は、それが悪ふざけではないということを、証明しているようだった。
ほんとに、私は彼の彼女で、彼は私の彼氏なの?
こんな簡単になれちゃうものなの??
ぐるぐると頭を駆け巡る疑問。
だが彼が言葉の続きに、これじゃあ4つになっちゃうか、と恥ずかしそうにはにかんだとき。
もう騙されてても、なんでもいいと、本能が答えを出した。
「……悠太…?」
恐る恐る呼んでみた、彼の下の名前。
笑い飛ばされたらどうしよう、なんて不安になっていた私だったが、予想に反して彼は、見たことのない顔で笑ってくれた。
やま…悠太、って、こんな風にも笑うんだ。
「里香」
そしてずっと“桃田さん”だった私が、“里香”になったとき。
ほくそ笑んだ私を、絶対に彼はあの余裕たっぷりの顔で見下ろすだろうと思っていた。
しかし彼はまたもその予想を裏切って、まるで恥ずかしいみたいに、顔をくしゃっとしたのだ。
それがなんだか嬉しくて恥ずかしくて、思わず彼の胸に飛び込んでいた。
そして彼も当たり前のように、ぎゅっと抱きしめ返してくれる。
「もうたまんないね」
迫る唇に、私は大人しく目を瞑った。
柔らかくて、温かい感触。
これからは、それに理由を探すことも、自制することも、虚勢を張ることもしなくていいんだ。
素直に、彼とのキスを喜んでいい。
その幸せが、身体中を包み込んだ。