正解はともかく、今までの私の始まりには、好きだという意思表示が必須だった。
しかしこの歳になれば、そうでもないのだろうか。

「いいの?」

なんか。
なんか違う気もするけど。

「うん。俺も桃田さんとは1回じゃ終われないなって思ってたし」

やっぱり、なんか違くない?

疑惑はどんどんと色濃くなっていく。

「あぁ…そっか…」

だがそれを問い正せるはずもない。
経緯はどうであれ、結果的には私の望んだままのことが、現実に起きているのだから。

「じゃあ、今日からよろしくね。彼女」

外人の挨拶のように軽いキスをされた。
次から次へと感情が入れ替わって、頭が追いついていかない。

そのとき、部屋の扉が2回ノックされた。

「悠太起きてるー?」

鎧塚さんの声だ。

「朝飯の時間〜」

その言葉に時計を見やると、確かに昨日予約した朝食の時間の8時を回っていた。

「やば、全裸」

ケタケタと笑いながら、彼は慌てて浴衣を着て玄関へと走っていく。

「今起きたから、先行っててー」

ドアを開けずに彼がそう言うと、鎧塚さんはそれを了承して、おそらく朝食会場に向かったと思われる。

「ひーびっくりした」

肩をすくめた彼を横目に、私は彼に背を向けて必死に浴衣を着ていた。
彼のようなプロとは違って、そうささっとは着れないのだ。

たぶんそんな私を見てだろう、背後から彼の笑い声が聞こえる。

「しょうがないから、今日はやってあげる。彼女だから特別ね」

そう言って、前に回り込んだ彼が目の前に跪くと、私の体は硬直して微動だにしなくなった。

こんな夢みたいなこと。
…夢?じゃないよね?

嬉しさで溢れ出す笑顔を抑えようにも、気づけばだらしなく口元が緩んでいる、その繰り返しだった。