しかしどんなに願っても、当然朝は来てしまうわけで。
なんだか息苦しくなって目を開けると、ぴったりと山辺さんの柔らかな素肌が、顔にくっついていた。
せめて呼吸が楽にできるくらいの距離を作りたい私だったが、中々彼の腕から逃れることは難しい。
起こしてしまわないよう、もぞもぞと小さくもがいていたときだ。
「ふっ、犬か」
頭の上で、彼の低い声がした。
「起きてるの?」
「ん。おはよ」
まだ眠たげな甘ったるい声が、きゅっと胸を締め付ける。
これが最後だなんて、あまりに残酷だ。
私は朝の挨拶をせずに、さも寝ぼけているのかの如く、彼の背中に手を回した。
もう十分に彼の体温を感じる距離だったが、もっと、もっと近くにいきたいと思ったから。
「どした?」
優しく頭を撫でられる。
そんな彼氏みたいなこと、滅多にするもんじゃない。
彼は以前、にこにこと笑顔を見せながら、後腐れはないようなことを言っていたが、たぶん女性側はそうではないということを悟った。
無自覚なのか、弄ばれているのか。
いずれにせよ、私のような女は、それにころっとやられてしまうのだ。
「……3つめのお願い、まだしてないです」
ー おいおい。
何を言うつもりなんだ、自分よ。
抑えきれなくなった本能が、暴走を始める。
「あ、俺もだ。いいよ、何?」
少しだけ体が離れて、ようやく彼と目が合った。
今が何時なのかわからないが、まだ彼も眠たそうに目尻を垂らしている。
「山辺さんと、まだ終わりたくないです」
やたらとはっきり、私は3つめのお願いを口にした。
ここまで言ったなら、もうすべて言ってしまった方が逆によかったのかもしれないと、少しだけ後悔。
話が変な方向にいってしまわないか、やや心配だ。
しかし彼の眠たそうな目は、驚く素振りを一切見せない。
まるで私がそう言うのがわかっていたかのように思えた。
「付き合う?」
「…え…?」
「だから、俺たち付き合う?」
付き合うか否かって、こういう感じだったっけか?

