ピーっという不快な音が、突如無防備な耳に襲いかかった。

「テレビつけっぱだった…」

布団から起き上がって、テーブルの上のリモコンを取りに行こうとしたとき。
布一枚纏っていない自分に、一瞬目を疑った。

恐る恐る隣に目をやれば、あれが夢じゃなかったことを思い知る。

「はぁ…」

テレビを消してから、思わずため息が漏れた。

結局私の理性なんて、彼の一挙一動によって簡単に崩れ去ってしまう。
そうしてついに、彼と関係を持ってしまったわけだ。

彼とのそれは、今までの私が知っていたそれとはまったく違って、あの瞬間は本当に目の前の彼以外なにも見えなくなっていた。
あんなのは、初めてだった。

6年という長すぎるブランクのせいもあるのかもしれないが。

とりあえずそこにあった浴衣を羽織って、部屋の電気を1つ暗くする。
私はまるで気を失ったかのようにすっと眠ってしまったが、もしかしたら彼は私を気にかけて、明るいままにしておいてくれたのかもしれない。

なんて都合のいいように考えると、さっきまでの憂鬱な気分は少しだけ晴れた。

隣の布団が綺麗に揃えられたままだというのに、私はまた、ごそごそと彼の隣に潜り込む。

私の髪とは違う、さらさらの髪の毛。
アーモンド型の目を羨ましくは思っていたが、それに加えてまつ毛までも長い。
低くなく、高すぎない、綺麗な鼻。
ピンク色の唇は少しだけ開いて、その隙間から子供のような寝息が聞こえる。

思っていたより厚い胸板も、うっすらと線の入った腹筋も、どれをとっても彼は100点満点の男性だ。

一夜だけでも一緒に過ごせてよかったと思わなければ、バチが当たる。
それなのに、やっぱり私の胸に渦巻くのは、幸せよりも悲しみばかりで。

“俺は1回だけだもん”、彼が以前放った言葉だ。
私はその言葉を聞いたから、頑なに身体を許さないように決めていたのに。

なし崩し的に、その1回をしてしまった。
それが示す未来はつまり。

「はぁ〜…」

寝ているのをいいことに、腕枕をしてそのままになっている彼の左腕にそっと頭を乗せて、脇に顔を埋めた。
くんくんと彼の匂いを無意識に嗅いでいた自分は、彼が起きたら間違いなく、変態と罵られるだろう。

もうずっとこのままでいたい。
朝なんてこなくていい。

本気でそんなことを思ったのは、きっとこれが初めてだった。