「何言って…」
「こっち向いて」
顔を上げられない私の左頬に、山辺さんの温かい手が触れた。
熱を帯びた彼の視線に、瞬きもできない。
ー だめ、絆されちゃだめ。
私はそれを繰り返す。
「桃田さんのお願いは?」
「………手、緊張するから離してほしいです…」
思わず口をついて出たのは、弱虫な方の私の言葉。
なんでこんなこと。
緊張してたって、彼に触れられるのは嬉しいのに。
どうしてそう素直に伝えられないんだろう。
「ん、わかった」
彼の温もりが遠ざかっていく。
自分が言ったくせに、私は喉の奥が熱くなるのを感じた。
離れないで。妙に大胆な方の私が、2つ目のお願いを口走りそうになったとき。
彼の唇が、そっと私の頬に触れた。
「2つ目。キスしたい」
ぽろっと左目から、粒が溢れ落ちたのがわかった。
お手本のように綺麗な形の彼の唇に、私は唇を近づける。
目を瞑ると、両方の目から涙が溢れて頬を伝い、それと同時に、唇にあの日以来の感触がした。
もっと触れたいし、触れてほしい。
好きって言いたいし、好きって言ってほしい。
伝えられないその想いがこんがらがって、自分でも感情の整理がつかずにいた。
どうしようもなく、彼が好き。
そればっかりで、胸がいっぱいなんだ。

