そしてこの勝負、まさかの引き分けに終わったわけだが。
「一番平和ですね」
いささか悔しかったが、終わり方としては一番平和的だ。
勝ち負けのつかなかった勝負だから、てっきりこれで終わりだろうと思っていたとき。
「3つ聞いてあげるから、俺のも3つ聞いて」
とろんとした目で、彼が私を見つめた。
「え、罰ゲームやるの?」
「やるでしょ、桃田さん勝ってないじゃん」
そう言われれば、確かにそうではあるけれど。
でも負けたわけでもないのに。
「…なんですか?朝ごはん返せって?」
「ちょっと水飲んでから。このワインなんか変な回り方しない?」
変な回り方をしているのは、おそらくワインのせいではない。
彼の飲み方の問題だ。
山辺さんはこたつから這い出て、洗面所のコップに水を汲みに行った。
「あ、山辺さん。冷蔵庫にペットボトル入ってましたよ」
私は慌てて冷蔵庫を開けて、それを彼に手渡す。
彼はそのペットボトルの半分くらいを飲み干して、気持ちよさそうに息を吐いた。
その姿を微笑ましく思いながら、私も気が抜けたのか大きな欠伸が出ていた。
ふと時計に目をやると、ちょうど今日が明日に変わるまであと数秒。
さすがに眠いけど。もう寝たいけど。
並んで敷かれた2枚の布団の間には、わずかな隙間しかない。
布団の上にいるわけにもいかず、かといってまたこたつに入ったら、今度はそのまま眠ってしまいそうだし。
どこにいたらいいかわからず、隅の方に避けられた和風の座椅子に腰を掛けて、見てもいないテレビに真剣なフリをした。
「そろそろ寝る?」
トイレから出てきた彼は、さっきまで少し赤かった顔が、すっかり元に戻っていた。
酔いが回ったわけじゃなく、ただ単に、こたつにのぼせていただけだったのかもしれない。
それか、トランプに白熱しすぎたか。
「う、うん」
彼が切り出してくれたことで、私はのそのそと近い方の布団へ移動した。
真っ白で冷たい布団の上、なぜか同じ布団の上に彼も座っている。
「あ…山辺さんこっちがいいですか?」
さっきまではあんな可愛かったくせに、完全に今の彼は、初めてキスをしたあの日の彼の顔だった。
それに気づかないフリをして、やり過ごそうとしたのに。
逃げるように隣の布団へ移動しようとした私の腕が、ぐんと彼に引っ張られた。
「桃田さんと一緒がいい。これ1つ目ね」
子犬のような瞳で、言っていることはまるで狼だ。

