レフティ


「スピードって知ってる?」

2人で向かい合ってこたつに足を突っ込むと、山辺さんはトランプを赤と黒に分けながら、そう聞いた。

「懐かしいですね…!」

今の子達がやるのかわからないが、私たちの世代では間違いなく大ブームとなった、トランプゲーム“スピード”。

2人用のゲームで、トランプを赤と黒に分けて、どちらかの束を自分の持ち札として手に持つ。
その持ち札の上から順番に4枚をめくって手元に並べて、同じ数字があれば重ね、さらにもう1枚を持ち札から並べることができる。
そして「スピード!」という掛け声とともに持ち札からお互いに1枚を出して、それに連続する数字を、手元に並べたカードから出していく、というゲームだ。
持ち札が先になくなった方が、勝者である。

なぜスピードなのかと言えば、とにかく速さが勝負を左右するから。

「桃田さんめっちゃ弱そう」

これからスピードをやる机の上に並べられた、チーズスナックとブルーワインの注がれたグラス。
少々危険な気もしたが、それをつまみながら、余裕たっぷりな顔で人を馬鹿にした彼に、口を尖らせた。

「だいたいスピードは、男子の方が下手なんですよ」

黒のトランプの束を何度か切って、それを彼に差し出す。
勝負は数字の出る順番も重要であることから、持ち札は相手が切るというのが、一般的なルールだ。

「罰ゲームなんにする?」

まだ勝負してもいないのに、まるで勝者の顔で彼は言った。

「なんだっていいですよ、私負けませんから」

どこぞのドクターのような台詞。
言った瞬間しまった、と思ったが、やはり彼はそれを聞き逃しておらず、大きな口を開けて笑っている。

「おもしれーな〜桃田さん」

随分と念入りにシャッフルされた赤のトランプの束が私の手元にきて、結局罰ゲームは、勝者の言うことをなんでも1つ聞く、ということになった。

なんだか危険な香りがする。
これは絶対に負けられない。

「スピード!」

勝負がスタートした。