レフティ


「桃田さんも眠い?」

山辺さんはそーっとトランプを片しながら、優しく微笑んだ。
彼はまだ、元気そうに見える。

「いや私はそんなに。あの青いワイン飲みたかったです」

私も美沙の手元からそっとトランプを引き抜いて、山辺さんの束ねる山に加えてもらった。

青いワインというのは、おみやげ屋さんで一際目を引いた“ブルーワイン”という名称のワインだ。
お店の人によれば、瓶に色が付いているのではなく、本当に透き通るようなブルーのワインなんだそう。

見慣れないそれに揃って尻込みしていたところ、彼が買おうと言ってくれたのだ。

「俺も。まださすがに眠くないわ」

トランプを箱にしまうと、彼はこたつから足を抜いて立ち上がった。

「あっちの部屋で飲みなおそっか」

ー それはつまり、隣の部屋に彼と2人きり…?

私は目をぱちくりして、どう答えるのがいいのか悩みに悩んだ。
嬉しそうに頷くのも、なんだか違う気がするし。

「はい、行くよ」

右手にブルーワイン、左手にトランプとおつまみをいくつか持った彼は、そう促して部屋の扉へと歩いて行く。

いまだどんな顔をしたらいいのか答えを見出せないまま、私はとにかく彼の背中について、そのまま隣の部屋へと足を踏み入れた。

ガチャ、と鍵を閉めた音に、一層胸が跳ねる。

ー キスまで。キスまで。キスまで。

呪文のように何度も繰り返して、そう簡単に消えて無くなってしまわないよう、深く深く脳に刻み込んだ。