レフティ


露天風呂から眺める富士山をあれほど楽しみにしていたというのに、それに感動したのも束の間。
私たちは、今日までに美沙と鎧塚さんが3回も飲みに行ったという話や、先ほどの山辺さんの行動は小悪魔を通り越してる、なんて話に花を咲かせていた。

花より団子とはよく言ったもので、まさに今の私たちそのものである。

「風呂からの富士山、贅沢だったよな〜」

だから夕食中の鎧塚さんのその言葉には、適当に頷いてやり過ごした。

その後、女子部屋に集合して、もはや定番化している大富豪を始めたものの、運転を1人で請け負ってくれた鎧塚さんはさすがに疲れが出ているようだ。
おみやげ屋さんで買った1本目のワインを開けるより前に、眠たそうに目をこする。

「やべぇもう眠い」

4人で足を突っ込んだこたつに、堂々と彼は体まで潜り込ませた。

「ちょっ!これ里香ちゃん?この足ちょっと危険なとこにあるから気をつけて!?」

「やめてくすぐったい!」

足首を掴まれてびくっとすると、彼は焦った顔して、本当に気をつけて…?と力なく言った。

普段なら罵るところだが、今日はさすがにそれもできない。
今日ここまで連れてきてくれたのは、紛れもなく彼だからだ。
ペーパードライバーの私にできることは、今ここで彼を気持ちよく休ませてあげることくらいだろう。

「もー」

渋々私は体育座りになって、足先だけをこたつに残した。

やけに静かだと思えば、美沙もトランプが散らばった机に顔を突っ伏して目を瞑っていた。
この2人は遊園地でも相当にはしゃいでいたから、余計になのだろう。
まだ22時過ぎだというのに、まるで子供みたいだ。