レフティ


「うっわ!」

私と美沙は、目の前に広がる富士山と、真っ赤に紅葉したもみじに、仲居さんの前にも関わらず、思わず声を上げていた。

「今日は天気もいいですから、綺麗に見えますよ〜。ちょうど紅葉も見頃ですしね」

ピンク色の着物の袖を器用に捌きながら、せっせと私たちの荷物を荷台から下ろし、お茶とお茶菓子の用意をしてくれる仲居さん。
簡単に部屋と大浴場の説明をされて、彼女は部屋を後にした。

「あ、お風呂行こうって剣士くんたちから連絡入ってるよ」

「行こ行こ〜」

慌てて仲居さんの入れてくれたお茶を啜りながら、部屋の浴衣に着替える。

よくある温泉浴衣のイメージとは違って、可愛らしい花柄の明るい色の浴衣は、それだけで少し気分が上がってしまうから不思議だ。

「これ可愛い〜いいね」

やはり美沙も同じことを言った。
それが、女心ってもんなんだろう。

私たちが、お風呂に入ったら化粧はどうするか、シャンプーは持って行った方がいいのか、今日のために新しく買った下着がどうだ、なんてことを話し続けていたときだ。

コンコン

部屋のドアが2回ノックされた。

「やば、待ち合わせ時間過ぎてた」

ぺろっと舌を出した美沙が、慌ててドアに駆けて行く。
私は、部屋の鍵と美沙の分のお風呂道具を抱えて、彼女の後に続いた。

「ごめんなさーい!着替えるの手間取っちゃって」

さすが美沙だ。いつの間に考えたんだか、可愛い言い訳をした。

「女子!浴衣可愛いな!」

女子、じゃなくて、明らかに美沙に向けて放たれた鎧塚さんの言葉。
彼はもう、まんまと美沙の手中に収まっている。

えーなんて可愛い素振りを見せる美沙が、なんだか少し気恥ずかしくて、私はそれに背を向けて部屋に鍵をかけた。