遊園地から車で10分ちょっとの場所にある宿は、満場一致で決まった、割と評判のいいところ。
部屋にこたつがあるというのも、ポイントの1つだった。
「鎧塚様と近藤様が代表者様で、ふた部屋、ご用意しております」
チェックインの手続きでそのように説明され、宿側の配慮で、隣同士の部屋を用意してくれたようだった。
「ほら桃田さん。みんなおはしょり浮いてないでしょ?」
山辺さんは耳元で、私たちの荷物を荷台に乗せてくれている仲居さんを目で指した。
「確かに…ぴしっとしてる」
「ね。帰ったら頑張ろうね」
彼の顔は“山辺先生”になっていて、なんとなく、着付けの先生をやりたくてやっているわけじゃないのかと思っていたが、それは思い過ごしだったようだ。
「あっちに辻ヶ花の着物飾ってあるらしいよ」
チェックインの手続きを終えた鎧塚さんもまた、なにやら知らない単語を口にしていた。
「やっぱすごいね、呉服屋と着付け講師」
美沙がひそひそと私に向かって言ったが、その言葉は2人にも届いてしまっていたようだ。
仲居さんのあとに続きながら、2人はこちらを振り返って、ばかにすんなよ〜と笑う。
「全然!ばかにしてない!」
本心だったが、あまりに慌てて訂正した私たちの姿は、どうやら彼らには嘘っぽく見えたようだ。
今日こそは潰す、と鎧塚さんが悪い顔で言った。
「こわ〜」
そんな私たちを、ケラケラと笑う山辺さん。
あの笑い方、ほんと好きだな、なんて。
しみじみ思ってしまった。

