「里香里香里香」
案の定、美沙は随分と興奮気味だ。
「わかってるわかってる」
フードコートに入った私たちは、それぞれ食べたい物のお店の前で列に並ぶわけだが、私と美沙はどうにか2人だけになれるよう、最後までうろうろとしていた。
ようやく山辺さんたちが、中華料理に決めたとき。
私と美沙はそれから一番離れた、うどん屋さんに並んだ。
「で!」
私のその一言で、美沙は両手を胸の前に合わせて、本当に乙女のように語り始める。
まぁ色々話していたが、つまりは、ボディタッチが手馴れていて、悔しいんだけどドキドキしてしまう、ということだと理解した。
「でもほんと、2人すごいいい雰囲気出してるよ」
「まじ!?先生は?先生はなんて言ってた?」
「山辺さんも。同じこと言ってた」
鎧塚さんを幼い頃から知る山辺さんにも、同じように見えていると知った美沙は、嬉しさを堪えきれない様子で、口からふふふという声が漏れていた。
「って言うけど、里香たちももう付き合ってるみたいだったよ」
「またまた。山辺さんも、2人にしてあげようって思ったんだと思うよ」
「いや、そこもだけどさ。さっき合流するとき、遠くの方に2人が見えて。なんかきゃっきゃしてたじゃん」
氷のように冷たい手を、頬に当てられたときのことだろうか。
「剣士くんが、あんな悠太見たことない〜ってにやにやしてたもん」
「……それは…普通ににやける…」
そしてとうとう2人して声をあげて、嬉しさを爆発させた。
こんな私たち、もしかしたら高校生以来じゃないだろうか。
お互いそれから彼氏がいたこともあったが、基本的に来るもの拒まずだった私たちにとって、このテンションはまったく珍しい。
「頑張ろうね」
「うん。でももう私心臓もたないかも…」
「それは私もよ…!」
先に席を取っていてくれた彼らを見つけて、たぶん私たちは揃って、呼吸が浅くなっていたことだろう。

