それから私たちは、この寒空の下延々と、ナガシマスカという水がばしゃばしゃかかるアトラクションに乗り続けていた。
「さみぃ」
山辺さんが気だるそうな口調でそう言ったが、その顔は随分と楽しそうに見える。
「でもこれが一番平和でいいです」
彼は濡れた前髪をぐしゃぐしゃとタオルで拭きながら、私の言葉に声を上げて笑っていた。
「はいはい、よかったね〜」
「わっ!いいです、自分でやりますから!」
そのタオルで今度は私の濡れた髪を、ぐしゃぐしゃと拭いてくれる彼。
ドキドキするから、ほんとにもう。
やめてほしい。
「あ、剣士たちこっち来るって。ご飯食べよっか」
きっと美沙も同じように、何度も何度も、鎧塚さんにドキドキさせられているんだろうな。
「2人、どうなってますかね」
「さぁ〜。でも近藤さんに彼氏できちゃったら、寂しいんじゃないの?」
にやにやと意地悪く笑う山辺さんは、濡れてさらに冷たくなった手を、ぴとっと私の頬にくっつけた。
「ひゃ!!ちょっと!」
あまりに不意打ちで、今回のはドキドキよりも、怒りの方が大きかった。
そんな私の反応に、お腹を抱えて笑う彼。
ー 美沙に彼氏ができたら、確かに寂しいけど。
だけどもう私には、新しい出会いなんていらないから。
山辺さんがたまにこうやって遊んでくれたら、寂しくなんかないのに。
「…寂しくなんかないですよ」
素直に言えばいいものを、肝心な部分を言う勇気のない私は、やっぱりまた、強がりの可愛くない女になってしまう。

