レフティ


俺が初めて彼女を怒らせてしまった日、今にも泣き出しそうに、“誰でもよかったら、こんなにこじらせてない”と訴えた姿は、不器用そのものだった。

大学時代、左利きの出生について研究していた俺は、不器用で感情的な彼女の姿が、あまりにデータ通りでおもしろくなってしまったんだ。

「…お水、飲みます?」

そんな彼女は、ちらっと目だけで俺を見る。

「ん、ありがと」

最初は彼女のこの態度が、カマトトなのかと思っていた。
そういう女の子って少なからずいるから。
私経験少ないんです、みたいなやつ。

でも彼女は、たぶん本物。
可愛いことを言うべきところで、いつも変に強がってるし、テキーラ何杯飲まされても、びくともしないし。

「…ほんと、おもしろいよね」

「え、何がですか?」

腰に回した俺の左手にびくっとしながらも、必死に平然を装う姿に、また俺は俺らしくもなく、口元を緩めてしまっていた。