レフティ


トンデミーナは、一応絶叫系に属するようだが、ジェットコースターの怖さとはまったく違った。
多分私は、あのスピードが苦手なようだ。

その証拠に、結構な高さでスイングしながら座席が回転し、まるで空に投げ出されてしまいそうな感覚になるアトラクションだったが、これは楽しくて楽しくて仕方なかった。

「すんごい楽しいですね、これ!」

途中、私がそう話しかけてみたものの、たぶん周りのはしゃぐ声にかき消されてしまったのだろうか。
山辺さんからの返事はなかった。

「これは乗れます!すごい楽しかった」

「そりゃよかった」

ー ん?
なにやら彼の様子がおかしい。

「山辺さん?大丈夫ですか?」

「ん、何が?もっかい乗る?」

私を見下ろした彼は、いつもの余裕たっぷりの彼に戻っていた。
私の勘違いだったのだろうか。

「…乗る!」

回転率が良いからなのか、私の言葉からすぐに順番が回ってくると、また彼は口数が少なくなる。

「もしかして…山辺さん苦手ですか?」

「はぁ?全然。ジェットコースター乗れなかった桃田さんが乗れんだから、そんなわけないでしょ」

ぶつぶつ口を尖らせながら、安全バーを下げて、何度も何度もそれがきちんとかかっているか、確認を繰り返す山辺さん。

絶対そうだ。
回る系が駄目な人なんだ。

「手、繋ぎます?」

「いらん!」

私はこれまでの恩をすっかり忘れて、意地を張る彼の姿に、とうとう声を上げて笑ってしまっていた。

「大丈夫ですよ、声出せば!ね!」

さっきの山辺さんを真似てみると、彼もそれに気づいて、鋭い目つきで私の方を見た。

「お前…あとで覚えとけよ…」

ぎゅっと安全バーを握りしめて、徐々に高く上がっていくそれに耐える姿は、きっとこれまでに見たどの山辺さんより、情けなくて可愛くて。

私しか知らなければいいのに、なんて思った。

案の定、2度目のトンデミーナで完全にやられた彼は、アトラクションを降りてすぐに、ベンチに倒れこんだ。