山辺さんが買ってきてくれたペットボトルの水をごくごくと飲み干すと、随分と胸がすっきりした。
首に巻いたマフラーを緩めながら、私は3人に、アトラクションに乗ってきて、とお願いをした。
いくらここにいてもらっても、あの記憶を思い出してしまった私は、たぶんもうこの遊園地の大半のアトラクションに乗ることができないだろう。
「えー、でも…」
うずうずしながら、それでも私に遠慮している素振りの美沙。
私は彼女の背中を、力なく押した。
「2人、乗ってきなよ。俺桃田さんとちょっと休憩してるわ」
「や、いいですよ、山辺さんも…」
「いいから。俺も実はあんま得意じゃないの〜」
それはきっと嘘で、さっきの山辺さんは見たことのないような、子供みたいな笑顔を見せていた。
そんな無理して私を選ばないでいいのに。
その想いが、4割。
残りの6割は、飛び跳ねてしまいそうに嬉しいという、素直な想いだった。
「じゃあさ、お昼は一緒に食べよ?とりあえず逐一連絡すっから」
鎧塚さんもまた、私に遠慮するように言った。
しかし、意図したわけではないが、2人にいいアシストを出せたんではないだろうか。
案の定、美沙は顔をくしゃくしゃにして、ごめんね、と謝った。
2人で1つのパンフレットを広げながら、弾む足取りで次に向かう後ろ姿。
それは、今にもスキップしだしそうにすら見えた。
「剣士嬉しそうだな〜」
よいしょ、と隣に腰掛けた山辺さんも、そんな2人に目を細めていた。
「あの、なんか最近ずっとすいません…迷惑かけてばっか」
「それな。まじでナガシマスカ乗ることになっちゃったじゃん」
恐縮した私を、軽く笑い飛ばしてくれた彼の姿に、胸がきゅーっと苦しくなる。
ほんと、好き。
「少し良くなったら、乗れそうなの探しに行こ」
色んな意味で天を仰いでいた私の手に、彼の手が重なる。
ボディタッチなんて、慣れたもののはずだ。
大人の男と女がお酒を飲んだら、そういうことも往々にしてある。
それでもやっぱり、彼の手は特別らしい。
私はそれを握り返すことも、もちろん振り払うことも、何もできずに、ただただ雲ひとつない空を眺めることしかできなかった。

