レフティ


「うひゃー!!」

前列で絶叫する鎧塚さんと美沙に反して、私は重力にやられて声も出なかった。

「桃田さん!声声!声出したら怖くないから!」

歯をくいしばる私を見て、隣で大笑いする山辺さんはそう大きな声で叫ぶ。

ー 無理無理無理。こんなスピードで口を開いたら、むせ返ってしまいそうだ。

私は素早く首を左右に振った。

「大丈夫だから!わー!って!」

世界最高加速のジェットコースターは、そんなことを話しているうちに、あっという間に終わっていた。

げっそりする私を見て、3人はお腹を抱えて笑う。
しかしそれを咎める元気すら、私は失っていた。

乗ってから気づくとはなんとも間抜けだが、私は絶叫マシンが苦手だった。
小さな頃からずっと。
それは、まだ私と美沙が小学校5年生頃の記憶だ。

新聞の契約特典で貰ったという、地元の小さな遊園地のチケット。
なんとかそれを親にねだって手に入れた私たちは、初めて友達同士だけで遊園地に行った。

そのときのことだ。
我が家の両親は絶叫系が苦手ということもあって、それまで一度も、ジェットコースターというものに乗ったことがなかった。
一種の憧れみたいな。そういうものがあって、私は人生初めてのジェットコースターに、意気揚々と乗ったのだが…

「里香、気失って大変だったんだよね」

「覚えてたなら…もっと早く教えてよ…!」

ベンチでうなだれる私を、まだ3人は笑い続けている。