「…それ、彼女いてもそうなんですか?」
〆のチャーハンに舌鼓していたときだ。
私はそれを頬張りながら、無意識のうちにそう尋ねていた。
「え?彼女いたらしないと思うよ…たぶん。まぁ彼女いらないからさ」
仮にも、だ。
仮にも、先日キスをしたばかりの女が目の前にいるというのに、そこまで言い切る必要があるか?
「もしかして、私牽制されてます?」
こんな探り合いみたいなやり方、ほんと得意じゃない。
しかも相手は山辺さんだ、敵いっこない。
「あはは、やっぱたまに桃田さんは鋭いね」
そんなときだけ顔をくしゃくしゃにして。
悔しい。ドキドキさせられてる自分が悔しい。
「前も言いましたけど。私軽そうに見えてるかもしれないですけど、ほんと違うんで!彼氏以外とは絶対寝たりしないし!」
冷酒に景気づけられた私は、聞かれてもいないのに、高らかにそう宣言していた。
そしてやっぱりそれに、顔をくしゃくしゃにして笑う山辺さん。
「それは見ものだね〜」
頬杖をついて横目でこちらを流し見る彼の顔は、本当に余裕たっぷり。
それはあのキスが間違いだったかもしれないことを、予感させていた。
しかし、もうキスはしてしまったから仕方ないとして。
絶対にそれまでだ。
それ以上は、絶対に許してはいけない。
私はいまだ隣でケタケタと笑いながら、上機嫌にお猪口を傾ける彼の横顔に、そう誓った。