「お?美沙ちゃんも一緒?」
ミドリくんもまた少し酔っているのか、いつもより声が大きめだ。
「里香大変だったんだから!ミドリくんがちゃんと捕まえておかないから!」
「ちょっと美沙~」
言うだけ言って、美沙はミドリくんに私を投げ渡し、じゃねっと足早に去って行った。
「美沙ー!がんばってねー!」
私の言葉に小さくピースサインをした彼女は、もしかしたら今日で彼氏が出来てしまうのかもしれない。
親友の幸せを願いつつも、やはりそれは寂しさを含んでいた。
「なに、大変だったって?なんかあったの?」
ミドリくんはお店に向かう道中、心配そうに私の顔を覗いた。
「ううん、ちょっとさ…変な人に絡まれちゃったっていうか…」
「え、合コンで?」
「そう。だから結局出会いもなかったし…」
私の言葉に、ミドリくんは困ったように笑う。
少し血色のよくなった唇と頬が、彼の肌の白さを際立たせていた。
「え、じゃあまだそいつこの辺にいるかもしれないってこと?」
「あーまぁ。だけど美沙が頼んでくれて、二次会に連れられてったとは思うけど」
「じゃ今日はうちで飲も」
行きつけのバーに向かっていたが、ミドリくんの気遣いで、私たちは駅の方に向かって、来た道を戻ることになった。
「…ありがと」
「あは、むしろお金浮いて助かるわ」
そういって笑い飛ばしてくれるところ。
ミドリくんのそういうところが、本当に好きだ。
満員の電車で、さりげなく私を守るように立つミドリくんの胸に少しだけ、ほんの少しだけ、ときめいている自分がいた。

