「お前関係ねーだろ」
健くんは山辺先生に掴みかかったが、ちょうど店員が通りかかったことで、大人しく席へと帰って行った。
「なんだあいつ。ただのビビりじゃんね~」
山辺先生は襟元を整えて、私の頭を撫でる。
「大丈夫?怖かったね?」
先生の優しい声と手の温もりにはもちろん安心したが、それよりも、恥ずかしいところを見られてしまったという気持ちの方が大きかった。
「すいません…ほんとに、あの…ありがとうございます」
「間一髪だったね。気をつけないとだめですよ~」
さっき健くんを引き剥がしてくれたときとは違う。
私の知っている山辺先生の、あの気の抜けた口調に戻っていた。
「でも桃田さんって、合コンとかするんだね」
「え、あぁまぁ…そうですね…―先生は?彼女さんとですか?」
私ってやつは、こういうときは妙に頭の回転が速くなる。
あの日、私は彼氏がいないと答えたが、先生の答えは聞いていない。
「ううん。俺も合コンだよ」
「はっ…そうですか…」
思わぬ答えに、つい口元が緩んでいたようだ。
「お前もじゃんって今思っただろ~」
頬をつねられた。
やっぱり先生には、簡単にドキドキしてしまう。
それは容姿で、という意味なんだろうか。
「じゃ、また金曜日ね。お待ちしてまーす」
そんな私の気も知らず、先生はひらひらと手を振って去って行った。

