開始から30分ほどだっただろうか。
美沙がトイレに立ったのを皮切りに、少しずつ、組まれていた男女の隊列が崩れていく。
私の隣には、いつの間にか健くんが座っていた。
「リカさんは、お酒強いんすね?」
もう空になりそうな私のグラスを見て、彼はドリンクメニューを差し出してそう言う。
そんな彼は、すでに顔が真っ赤であった。
「健くんはあんまり?お酒飲まないの?」
「いやー酒の席は好きなんすよ!だけど弱いんすよね~」
笑うと猫のひげみたいに、目の下にえくぼができた。
「それ、かわいいね」
私が自分のそこを指すと、彼は照れた素振りを見せる。
なんだか彼を見ていると懐かしい感覚に陥るが、これは一体なんなんだろうか。
健くんは私のハイボールと自分のジントニックを注文して、「食べないと悪酔いしますよ」と、サラダやらから揚げやらを取り分けてくれた。
「ありがと~」
そして私がそれを食べようとしたとき、やっぱり指摘される。
「リカさん左利きなんすね!?」
今時それほど珍しくもないだろうが、こういう席では必ずそれが話題にあがる。
ある意味話題を提供できて、有難くもあるのだが。
「そー。手ぶつかっちゃうよね、ごめんね」
私の左隣に座っていたこともあり、そんな風に声を掛けると、彼は想像以上に大きく首を横に振って答えてくれた。
「全然っすよ!いいなー左利き。天才肌って言いますよね!」
「いや私はもう全然。平民だよ」
えーっと言って声をあげて笑う彼。
こういうやり取り、もう何度繰り返してきたかわからない。
左利きが天才だとか、そういうのはある意味偏見である。
私にはこれといった才能もないし、変わった特技もないし、感性が優れているとか、そういうこともない。
天才なんていうのは、右利きにだってごまんといるだろう。

