彼の腕の中、変わらず聞こえる心臓の音。
この天井もベッドも、何一つ今までと変わらない。
変わったのは、私の左手の薬指だけ。
「…綺麗」
「気に入った?」
「うん。サイズもなんでかぴったりだし~」
嫌味っぽく言うと、彼は薬指から指輪を引き抜く素振りを見せる。
「待った待った待った!うそ!」
ケタケタと笑った彼を、もう私はまごうことなく独り占めできる。
嬉しくて嬉しくて。
「幸せです」
もうきっと今くらいしか、伝えるタイミングもないだろうから。
今だけは素直になってみた。
「ん~俺も。やっと手に入った感」
軽く重なる唇が、幸せで溢れていく。
「ね、両親が両方とも右利きだと、左利きの子供が生まれる確率は10パーセントなんだって。それで、どっちかが左利きだと、20パーセント弱。」
また彼の“左利きうんちく”だ。
うちは両親ともに右利きだから、私は10パーセントの確率で、左利きとして生まれたということか。
人口だとなんだかあまりぴんとこなかったが、10人産んで1人の割合となると、現実味が増した。
まるで、本当に自分が選ばれた人間みたいに。
「俺と里香の子供は、何パーセントだろうね?」
「― へ!?」
可愛げのない声をあげた私をあざ笑う彼だったが、さすがにその顔には、若干照れ笑いも含まれているように見えた。
左利きの彼。
左利きの私。
「…子供も左利きだったら、座る場所気にしなくていいね」
ぎこちない私の言葉に、悠太は優しく微笑んだ。
「だね」
fin.

