レフティ


そのあと、美沙はさっきの“オラオラ系”の男性たちと、合コンまでの時間だけ飲みに行きたいと懇願した。

「わかってる、里香のタイプじゃない…てか苦手なタイプだよね、わかってるんだけど!」

美沙はいつでもまっすぐだ。
それに一貫性がないことだけが、玉に瑕だが。

「全然いいよ。私今日いい人いなかったし」

まったく気乗りしなかった二次会では、美沙のアプローチをのらりくらりとかわし続けるその男に、若干の怒りを覚えつつも、ただただアルコールを摂取しながら、時が過ぎるのを待っていた。

「ねぇ美沙、そろそろ…」

合コンの待ち合わせ時間まで30分を切った頃、ようやく彼らと解散になると、お酒のせいなのか、はたまた違う理由なのかはわからなかったが、美沙は頬を染めて困ったように笑った。

「どうしよう、全然脈ないのにすごい好きなんだけど」

「えっ」

思わず声が漏れていた。
見込みがあるのならともかく、なぜ美沙がそこまであの男に執着するのか、私にはさっぱりわからない。

「…なんで?そんなに?」

それは本心であり、美沙にはもっといい人がいるのにという意味も込めてだったが、それがあくまでただの好奇心であるかのように、私は口元を緩めながら尋ねた。

「えーだってなんかいいの。なんだろ説明できないよ~恋って理屈じゃないじゃん?」

― あぁ、もう恋なんだ。確定なんだね。
私は小さくため息を漏らした。

こうなった美沙は、もう誰にも止められない。
それは私が一番よく知っている。

「…美沙に彼氏できちゃったら寂しいなー」

苦し紛れにそう引き留めてみたが、彼女はそんなことは気にも留めない様子だ。

「あは、里香もそろそろ彼氏作ったらいいじゃん。ほら、ミドリくんとか」

「いやミドリくんは…そういうのじゃないよ」

「えー?だってよく泊まりに行ってるじゃん。ほんとになにもないのー?」

私はミドリくんが好きだけど、その好きは付き合いたいとか、もっと触れたいとか、そういう好きとは違うような気がする。

だから、飲みに行った帰り、ミドリくんの家に泊まらせてもらったって、何もないわけだ。

「ほんっとなにもない。なんかあったらもう会ってない」

私は首を大きく左右に振って否定した。
しかし、美沙にとってそれは、どうも信じられないようだ。

「ほんとかなー?ミドリくん絶対里香のこと好きなのにー」

「ないない」

「あ、それかあれじゃん。山辺先生!」

美沙は白いスカートを軽やかに揺らしながら、いたずらっ子のように目を輝かせる。

「他人事だからって。面白がらないでよ」

口を尖らせた私をよそに、彼女はさっきのオラオラ系の男からのメッセージに、胸をときめかせている様子であった。