レフティ


「左利きってね、女性の方がちょっとだけ少ないんだよ。なんかそれって、特別な感じしない?」

散々言われてきた、“左利き特別説”も、彼にそう言われると本当に特別な気がした。
まったく、単純だ。

「初めて会ったとき、まー要領悪そうな子だなとは思ったけど、それ以上に、左利きってところがすごく気になったんだ」

「要領悪そうって失礼だね、仮にも生徒に!」

そう口を尖らせると、また彼は「ごめんごめん」と謝る。
さっきと同じ。不気味だ。

「…めっちゃ都合よく考えればさ。俺が産みの親について知ってた唯一の情報が、母親が左利きかも、なんてことだったから。俺は左利きの出生にすごく興味を持ったし、それがあったから、里香のことも気付けたんだなって」

彼は続けて、「そうじゃなかったら、里香なんて面倒だった」なんて言う。
褒められてるんだか貶されてるんだか、よくわからない。
けど、目の前で目を細める彼の表情は、たぶん大筋は褒めてくれているのだろう。

私はまた彼の手が伸びてくる前にと、さっさと残り1つの八つ橋に手を伸ばした。

「だから、なんか色々間違えてたけど、俺の今までの人生も無駄ではなかったなって思えるよ」

「…え、待って待って待って。ちょっと待って」

八つ橋を口に含んだ私が動揺した理由。

「まださすがに早いから、これは予約ね。俺の気持ちは変わんないけど」

赤色の小さな箱。

「ねぇもう…ほんと…」

言葉にならなかった。

その代わりに涙ばっかりが溢れてくる。

「もう不安にさせないし、ずっと大切にする。人も殺さない。」

「…あは、なにそれ」

この前私が言ったことか。

その小さな箱から出てきたのは、やっぱり指輪で。
きらっとダイヤが輝いて、私に挨拶をした。