しかし情けないことに、まさか私は腰が抜けて、立ち上がることができずにいた。
「ごめん、やり過ぎた」
謝っておきながら、彼は嬉しそうに笑う。
そんな顔見せられたら、もう感情がわけわからなくなるから勘弁してくれ。
「ん」
「え、やだ。いいよ」
「だって立てないじゃん」
彼は背を向けてしゃがみこみ、私を背負う覚悟のようだ。
そんな恥ずかしいこと、できるわけない。
「ほら早く。誰か来たら恥ずかしいよ」
しかし彼のその言葉はその通りで、仕方なく私はその背中に甘えた。
髪の毛から香る、いつもの匂い。
彼曰くそれはワックスの香りだと言っていたが、それがホテルの甘いシャンプーの香りに変わっていなかったことが、少しだけ嬉しかった。
「はい、靴脱いで」
「もう大丈夫だから!降ろして…!」
「いーから」
なんだかんだ言って結局、ご丁寧にベッドまで運ばれた私。
そして彼は、私の隣ではなく、足元に腰を下ろした。
そして手を伸ばして、私の左手に軽く触れる。
なにそれ可愛い― なんて思いは打ち消さなければ。
「今日のことも、俺のことも。全部話すから」
「…うん」
そうして始まった、本当の彼の話。
それは思ったよりもずっと根が深く、私のような出来損ないじゃ、どうにもできないような話だった。

