本当に私ってやつは、可愛くない。
でも都合のいい女には、もうなりたくなかった。
「…ほんっと、厄介」
その言葉の次には、身を乗り出した彼の唇に捕まって。
「やだ…!」
「無理。言うこと聞くまで離さない」
いつになく抵抗しても、男の人の力には敵わないということを、まざまざと見せつけられた。
彼の大きな両手で頭を包まれてしまっては、どうしたってもう逃れられない。
顔を背けようとしたって、すぐに彼の唇に捕まってしまう。
でも、絶対に絆されたくない。
“彼女”の旨味を知ってしまった私は、それじゃないなら、そばにいても辛くなるだけだと、わかっていたから。
唯一の抵抗手段として、私は彼の舌を噛んだ。
「…今噛んだ?」
唇は離れたものの、彼に効いている様子はない。
「そんな弱くちゃだめだよ。逆に煽られちゃうから」
その言葉通り、さっきまでよりも一層深いキスに、応えざるを得ない自分が悔しい。
そんな、思いっきりなんて噛めるはずないだろう。
どんなに抵抗したって、腹が立ったって、私は彼が好きなんだから。
エンジンの止められた車内は、もう随分と冷えてきた。
それなのに、口の中はおかしいくらいに熱くて。
車内に響く彼の吐息が、どうしようもなく切なかった。
私もばかだ。
時間の経過とともに、やっぱり彼に絆されている。
さっきまで抵抗していた自分の手は、気付けば彼のコートをぎゅっと掴んでいた。
「お願いだから。話聞いて」
暗闇でもわかるくらい真っ赤になった唇から出た言葉に、もう大人しく頷くしかなかった。

